新任教員紹介2024
“推しワード”から知る先生の専門分野
日本大学商学部教員の研究紹介
未来の話をしよう
未来のために、
いま知りたい教育のこと
日本大学商学部には、さまざまな分野に精通した教員がいます。各分野の専門家である商学部の先生方から、わたしたちがより良い未来を生きるためのヒントを伺っていくのが、今号から始まる連載企画「わたしたちの未来の話をしよう」です。
第1回目は高校教員の教員免許状取得のための教職課程を受け持つ玉川先生から、高校生や商学部の学生がこれからの社会を生きる上で身につけておいた方が良い力や、そのために必要な教育について、ご経験と専門知識を踏まえたお話を伺いました。特に、教員を目指す学生は必読です!
玉川 弘文准教授
[主な担当科目]商業科教育法
Profile
都立高校を中心に、全日制から通信制までさまざまな高等学校に教員として勤務。東京都総合高等学校長協会会長、日本簿記学会理事、全国商業高等学校協会専門委員を歴任。2022年4月本学部へ着任。
多くの「体験」を通して、
未来を拓く力を養う
最初に先生の商学部での担当授業や、これまでのご経歴を教えてください。
教員を目指す学生を指導
私は高校の商業科の教員を目指す学生に、教員の在り方や採用試験対策などを指導しています。授業のベースにあるのは、私自身が本学部への着任前に普通科、商業科、総合学科の高校に勤務し、生徒指導の主任や校長職などを務めた経験です。それらを踏まえ、教育の重要性や現在の高校教育の方向性、課題などを学生たちに話しています。
時代とともに変化する高校教育の指針ですが、現在はどのような点を重視していますか?
私たちが生きる現代は、将来の予想が困難な状況を意味するVUCA(ブーカ※)時代とも呼ばれています。このような状況において、新しい時代を生きる子どもたちにどんな教育を行えば良いかという指針は、2022年度から実施されている新しい学習指導要領(新高等学校学習指導要領について:文部科学省Webページへリンク)に詳しく示されていますが、なかでも大きなポイントの1つは、自ら課題を見つけ、考え、解決する力を育成する教育だと思います。「これはおかしい」と疑問を抱いたら、解決策を考えて主体的に行動する姿勢は、社会をより良くする原動力になるでしょう。
2つ目は、さまざまな人と協働する力を育む教育です。先に述べたように課題を見つけた際、それを他者と共有してディスカッションすることも協働です。自分にはないアイデアを得て、他者とともに解決策を模索する経験は多様性への理解を深め、これまでにない新たな物事の創造にもつながります。
※Volatility(変動性)、Uncertainty(不確実性)、Complexity(複雑性)、Ambiguity(曖昧性)の4つの単語の頭文字をとった造語。
玉川先生は教育現場のご経験が長く、高校生たちの実情を間近でご覧になってきました。不確実な未来を生きていくために、先生自身が彼らに必要だと感じる力はありますか?
何よりも当事者意識をしっかり持つことです。たとえば、いじめ問題。身の回りでいじめが起きているにも関わらず、周りの人間は他人事ととらえ傍観者になってしまうケースが多くあります。しかし、いじめを自分事として捉えることができれば、いじめられている子の気持ちに寄り添うことができ、問題解決のためにできることを自分なりに模索します。当事者意識を持つことは、問題解決の第一歩といえるのです。
問題解決のためには、困難を乗り越える力や失敗したとしても立ち直る力も欠かせません。これらの力を「レジリエンス」と呼びます。レジリエンスが高い人は自己肯定感も高い傾向にあると感じていますが、自己肯定感の高い人は、自然と他者にも心を配ってサポートすることができます。このレジリエンスは、新学習指導要領で示された“協働する力”の土台にもなるのです。
学校の外に目を向けてみると、SNSをはじめインターネットにもさまざまな情報があふれていて、今後はさらに技術革新が進むことも予想されます。目まぐるしく変わる時代だからこそ、主体性を持つことも大切になると思いますが、同時にとても難しいことのようにも感じますね。
より良い社会をつくる
まずは選択力を身につけることが大切だと思います。現代は膨大な量の情報にあふれているため、その中から正しい情報を選択することが求められるからです。また、選択のためにはその情報を客観的に分析する必要もあるので、分析力も磨いてほしいですね。
同時に、好奇心と創造力も高める必要があります。例えば、「パソコンはどうやってつくられているんだろう?」と、身の回りの製品に些細な疑問を持つのでも良いです。さらに、「AIを活用すれば、もっと高性能なパソコンがつくれるはず」などと想像することで、新たな開発がもたらされるでしょう。想像が創造を生むことで、より豊かな未来が拓けていくと思います。
生徒にそれらの力を身につけてもらうために、これからは特にどのような教育を重視していくことが必要だと思いますか?
当事者意識やレジリエンス、選択力などを習得するには、教室の外に出て他者と交流し、さまざまな「体験」をすることが重要です。自然体験や社会体験、身近な地域の人たちとの関係性の中で学ぶこともたくさんありますが、教育活動としては実際に小・中・高校に「総合的な学習(探究)の時間」が導入され、生徒は多くの「体験」をする機会が得られるようになりました。この時間は、問題の解決や探究活動に主体的・創造的・協働的に取り組む態度を育てることを狙いの1つとし、例えばある商業高校では商品開発なども行われています。企業とも協力しながら、商品の試作や失敗の分析などを行い、みんなで協働する「体験」ができます。
これはまさに、知識を実践に生かす学びを繰り返し、ステップアップしていく往還型教育といえるでしょう。多くの実践体験を通して、主体的に物事に取り組む姿勢や先を見通した計画の立案、失敗から立ち直る強さ、多様な選択肢から最適解を選ぶ力を鍛えることができるのです。
また、好奇心と創造力を高めるには、それらを引き出す授業を教員が創意工夫を持って行うことが大切です。これからの教育活動では、より一層重要になるでしょう。
「体験」を重ねて磨かれる
確かな先見性
複雑化、多様化する社会を生き抜くために、高校教育が担う役割は今後ますます重要になっていきますね。教員を目指す学生に必要な力や意識は何でしょうか?
先見の明と高い倫理観
先行きが不透明な現代社会において、教員には生徒たちに先見性を示す能力が求められます。そのためには、やはり教員自身が「体験」を重ねることが重要でしょう。商学部の教職課程では、2泊3日の日程で軽井沢研修を実施。行動予定表の作成はもちろん、予算立て、新幹線の予約などを、すべて学生に任せます。自分たちで考え、成功や失敗を体験することで先を見通す力も修得できるのです。
それに加えて、教員を目指す者として倫理観を高く持ち、「常に正しくあること」を意識してほしいですね。私は学生たちに「自分の言葉で倫理観とは何かをしっかり語れるように」と伝えています。
商学部で学ぶ学生へメッセージをお願いします。
成果を生み出してほしい
本学部の学生たちにも、当事者意識とレジリエンスを高めてほしいと願っています。どのような職種に就こうと当事者意識があってこそ仕事は成し遂げられますし、レジリエンスがあるからこそ何ごとにも挑戦することができます。加えて、挑戦という1つの行動によって最大限の効果を発揮するためには、ベストタイミングを見極める「タイミングマネジメント」も重要です。これらの力を商学部で培った学生たちが社会で活躍し、明るい未来を築いてくれると信じています。
玉川先生にまつわるエトセトラ
担当授業[商業科教育法]
教職課程の授業で使うプリントや論作文の課題資料は、玉川先生の手作り。教育実習の事前・事後指導などについても丁寧にまとめ、学生への指導に活用している。
研究室
授業の合間などに学生が質問に来ることも多いそうで、研究室の真ん中にはテーブルとイスが設けられている。勉強だけでなく悩み相談に来る学生もいるそうで、先生のお人柄がよくわかる。
教員時代の思い出の品
都立晴海高校の校長時代、学校改革を行った際に、玉川先生の心を支えた体育祭のTシャツ。背中に書かれた生徒たちのメッセージに、大いに勇気をもらったそうです。
教員を目指す方へ
日本大学商学部で取得可能な教員免許状
高等学校一種普通免許状:商業
教職課程とは、「教育職員免許法」に基づいて、教育職員(教員)の資格を取得するために必要な単位を修得できるように設置された課程です。大学卒業後、国・公・私立学校の教員を志望する学生は、大学で教職課程を履修し、卒業時に免許を取得のうえ各関係機関において実施する教員採用試験に合格することが必要です。