日本大学商学部教員の研究紹介
わたしたちの未来の話をしよう
― 未来×教育学 ―
日本大学商学部教員の研究紹介
未来の話をしよう Vol.4
未来のために、
いま知りたい環境会計論のこと
日本大学商学部には、さまざまな分野に精通した教員がいます。各分野の専門家である商学部の先生方から、わたしたちがより良い未来を生きるためのヒントを伺っていくのが、連載企画「わたしたちの未来の話をしよう」です。
第4回に登場するのは、環境会計論を専門とする村井先生。環境問題解決のために「会計」の視点が活きる理由、日本大学商学部で学ぶ意義など、さまざまなお話を伺いました。
村井 秀樹 教授
排水量取引の会計、
気候変動対応の経営・会計問題
[主な担当科目]
財務会計論、環境会計論
Profile
1986年、日本大学商学部卒。1992年日本大学大学院商学研究科博士後期課程満期退学。大学院入学と同時に副手となり、その後助手を経て、1992年専任講師。2004年教授。1996~1998年までカナダ・ウォータールー大学客員研究員。地方創生とエネルギー問題、環境会計、排出量取引など社会課題解決の視点から研究を進めている。
未来のために
会計学の可能性を探る
「環境会計論」という先生の専門研究について、
具体的な内容を教えていただけますか。
私が主に取り組んでいるのは、環境会計論の中の「炭素価値会計」という分野です。これは、カーボンニュートラル(温室効果ガスの排出量を“実質ゼロ”にすること)を目指す現代社会において、「会計がどのような役割を果たせるのか」を探るもの。もっと具体的に言えば、CO₂の排出を削減したり、森林がCO₂を吸収したりすることに、どれだけの経済的価値があるのかを数値化・可視化する取り組みなどが該当します。ここで導き出された数値などは、カーボンニュートラルのために動き出そうとしている企業や自治体が、意思決定を行う際に役立てることができます。
加えて、炭素価値会計に関連して、原子力発電によって発生する「高レベル放射性廃棄物」の処理費用や、将来の予測が難しい「核燃料サイクル(使用済み燃料を再利用する仕組み)」に関する会計上の課題にも私は注目しています。会計の知識を通して、環境やエネルギー、そして地域の未来にどう貢献できるかを考える――そういった現実社会と結びついた研究が、私の学問領域です。
会計という視点をもって、環境問題に向き合おうと思ったきっかけは何だったのでしょうか。
会計の新たな役割が見えたから
父が地方の電力会社の原子力関連部署に勤めていたこともあり、私は幼い頃から原子力発電の安全性について話を聞き、その言葉を信じて育ちました。しかしある日、私の息子から「使用済み核燃料を廃棄する場所がないのに、どうして安心・安全だと言えるの?」と問われたときにうまく答えられず、私の中でも安全性に対する信頼感が揺らぎました。
さらにその後、東日本大震災によって原発事故が起きたことで、私の意識はより大きく変化しました。当時すでに環境問題と会計学を結びつけた研究に取り組んでいた私は、原子力発電にかかる費用を、太陽光などの再生可能エネルギーに振り分けられないかという視点で、研究を深めるようになりました。会計の知識を使って費用を数値化・可視化することで、より具体的で現実的な提案が可能になればという思いで、日々の研究に取り組んでいます。
環境会計学の学びを学生にも深めてもらうために、
普段のゼミでどのようなことに取り組んでいるか教えてください。
私のゼミでは「現場主義」を重視しています。たとえば、カーボンニュートラルのための取り組みを実際に見て体感してもらうために夏合宿を企画し、森林資源を活用した取り組みを進める北海道・下川町の現地を視察したことなどが、「現場主義」の代表例と言えそうです。下川町では、森林を保全する林業形態のひとつである「循環型森林経営」を積極的に推進しており、
その知見を深めることにもつながったと思います。またその他にも、森林が持っている経済価値を体感してもらうために、植林活動にも参加するよう促していますね。環境問題を学ぶうえで重要なのは、机上の知識だけでなく、課外活動を通じて自分の目で見て手で触れて、現実を知ることだと思います。実際に体験することで当事者意識が芽生え、地球温暖化を自分ゴト化できるようになるからです。こうした意識の変化こそが社会を動かす力になると、私は信じています。
また2024年度は、ゼミ生3名が住友理工株式会社主催の「第10回SDGs学生小論文アワード」で優秀賞を受賞しました。その際は環境問題というよりは「社会課題の解決」という切り口でしたが、「農業の担い手不足」という課題にどのように寄与できるか、ということを、学生が強い当事者意識をもって考えていました。こういった発表の場にも、引き続き積極的に挑戦してもらいたいです。環境会計やサステナビリティ会計に必要な会計の基礎をしっかりと積み上げながら、現場での実践を重ねていく――私のゼミは、知識と体験を融合させた、実践型の学びができる場であり続けたいと思います。
こうした環境問題に関する学びを仕事に活かしたいと考える学生には、
将来どんな道が開けていくと思われますか。
どのような分野でも役立つはず
環境問題や、それに会計がどう寄与できるのか考えることで身についた力は、きっとどの仕事においても活かすことができると思います。とくに日本大学商学部では、環境、会計といった分野の他にも、マーケティングや経営など、実社会に直結する幅広い分野を学ぶことができますから、それぞれの知識が複雑な社会課題の理解や対応に役立つはずです。
近年では、多くの企業が持続可能な経営を目指す中で、CSO(チーフ・サステナビリティ・オフィサー)という役職を設けるようになってきました。CSOとは、環境や会計といった多角的な視点から、企業のサステナビリティ(持続可能性)戦略を立案・推進する最高責任者のこと。不確実性の高い現代社会において、今後ますます求められる存在となるでしょう。日本大学商学部で学ぶ知識は、こうした役割を担ううえでも大いに活かされます。仮に環境会計ではなく、税理士や公認会計士といった専門職に進んだ場合でも、経営や社会の動きを多面的に捉える力は、大きな強みとなることは間違いありません。
実践を繰り返して身についた力は、
多くの企業が求めている
会計を通じて社会課題に向き合いたい学生にとって、
日本大学商学部で学ぶ魅力はどこにあると思いますか?
実は、日本国内に「会計学科」を設けている大学はそう多くありません。そのような意味で日本大学商学部に会計学科があることは、大きなアドバンテージと言えると思います。
さらに、マーケティングや経営学などの実学も、学生の興味に応じて深く学べるのも特長のひとつ。ゼミの種類も多彩で、「机上の理論にとどまらない実践的な学び」を重視している点は、本学部ならではの魅力です。こうした学びから得た経験値は、今多くの企業が求める力です。なぜなら、企業の多くは短期的な利益だけでなく、環境や社会と調和した「サステナブルな経営」を重視しているからです。中でもESG(環境・社会・ガバナンス)への対応が求められる中、環境や社会課題を数値や貨幣価値で捉える力はとても重宝されると思います。日本大学商学部では、こうしたニーズに応える知識とスキルを身につけることができ、企業が求める“プラスα”の力も養われます。会計の知識が社会課題の解決に直結すると実感できれば、より学びに対して前向きになれるかもしれませんね。
最後に日本大学商学部の学生や高校生に向けて、メッセージをお願いします。
これは、日本大学商学部の学生に限らず、今を生きる若者全員に期待したいことですが、「自分は何がしたいのか」「何をするべきなのか」――こうした問いを、ぜひ真剣に考えてほしいです。そして、その答えが「自分の夢」や「目標」であると同時に、他の人を幸せにし、社会にとってプラスになるかどうかを意識してほしいのです。そうした「高い志」を持つことが、これからの時代を生きていくうえで、ますます重要になっていくと思います。2100年近くまで生きるかもしれない若者には、「自分だけよければいい」「今だけ楽しければいい」といった「低い志」ではなく、より広い視野を持ち、長い目で物事を考える力を育んでほしいと願っています。
村井先生にまつわるエトセトラ
研究室
本棚には会計や環境に関する多様な専門書が並び、資料は用途ごとにフォルダ分けされている。知識の源泉を思わせる空間からは、村井先生の環境会計に対する高い志を感じられる。
井尻雄士先生との写真
35年前、初めて世界的に著名な会計学者である井尻雄士氏の講演会を聴きに行った際、記念に撮影した一枚。井尻先生に「会計学の夢(Dream of Accounting) 」と「憧れ」を感じ、研究者という「道」に進んだ自分自身の原点を振り返らせる写真。
留学先で購入したファイル
カナダのウォータールー大学に2年間留学していた際、大学の購買部で購入したファイル。現地で学びを深めた証として、今も大事に愛用している。使うたびに「日本という狭い国に閉じこもらず、世界にメッセージを発信しなければ」と気持ちが引き締まるアイテムなのだそう。
