夏の暑さもやわらぎ、また夏に比べて夜の時間も長いことから、
読書をするには最適の季節と言われる秋。
新しい知識にふれ、教養を深めてみてはいかがでしょうか。
今回は商学部の先生方に、
この秋学生の皆さんに読んでほしい書籍を
ピックアップしてもらいました。
図書館に蔵書されている図書も掲載。
新しい本との出会いで、充実した秋をお過ごしください。
マーケティングの本の中には、「STP-4P」を分析フレームにして、マーケティングの用語や手法を身近な例を挙げて説明しながら「すぐに役立つ」ことを強調する本が多いように思います。これらの本では、4P(product, price, promotion, place)の各論が重視されており、体系性に欠けている限界があります。これらの本は読みやすくて面白いですが、残念なことに、新しいマーケティング問題解決のための力にはなれないです。
マーケティング現場で直面しうる新しいマーケティング問題の解決のために必要なのは、多様なマーケティング手法の名称を知ることよりも、その問題の本質を捉えて解決のための道筋を立てる能力です。①なぜその問題が起こるかを考え、②一般化を図り、③マーケティング理論と結び付けて様々な論理を理解した時に、ようやく問題解決のための道筋が立てられるようになります。
同書は、まさにその①-②-③を通じて道筋を立てるための基礎知識を提供してくれます。同書では、マーケティング論を「市場」と「関係」という2つの視点で捉えることで体系性の担保を図ります。同書を読み進めると、マーケティングの複雑な概念と理論がつながっていくことを経験できるようになります。しかし、概念と理論が多い上に、事例がほとんど紹介されていないために、難しく感じる方もいると思います。その場合は、同書で紹介するマーケティングの考え方を身につけながら、身近な事例を取り上げて、皆さんなりに分析・解釈することをお勧めします。「自分の頭の中にある知識で新しい知識が創れる」ことをぜひ楽しんでください。
この本が刊行されてから10年以上経っていますが、内外のマーケティング入門書の中で、同書ほどマーケティングの本質が捉えられて、体系的にマーケティング論が整理された本はあまりないと思います。「本物」のマーケティングを学びたい学生及び実務家の方にお勧めです。
まず、商学部の学生に対して法律に関する図書をオススメする理由を説明しておきます。
商学部は、広く「ビジネス」を学ぶ学部です。ただ、一言でビジネスといっても経営学、マーケティング、会計、そして法律など、様々な領域が複雑に絡み合い、そこでは複雑な問題が発生しています。
ビジネスで発生する複雑な問題、換言するならば、決まった答えが必ずしも存在しないような問題に対しては、主観に拘泥することなく、客観的なデータや第三者の見解、場合によっては海外の対応状況なども参考にしながら考察・分析することが必要となります。なぜなら、多くの場合、主観によるだけの結論は説得力に乏しく、また、主観によるだけでは妥当な結論を導き出すことも難しいからです。このような答えのないビジネスにおける問題に対して妥当な結論を導き出すための、いわば「実学」を皆さんは商学部で学んでいるわけです。
さて、本書の紹介に移ります。本書は、法領域に焦点を当てたうえで、古代から現代にいたるまでの法哲学・法思想をわかりやすく紹介しています。そして、そのような法哲学・法思想の内容をもとに現代の問題を取り上げ、分析をしています。
取り上げられている問題には、たとえば、動物は法的権利を有するのか、代理出産は法的に認められるべきか、安楽死は法的に認められるのかなどがあり、それらが、決まった答えのない問題であることがわかるでしょう。動物の法的権利についてみてみると、環境保護を訴えるために訴訟の原告に動物を加える例や、アメリカの一部の州では自身で飼っているペットに一定の財産を相続させることができる制度が設けられていることなど、以前では考えられなかったような大きな変容を見せています。
こうした法哲学や法思想において取り上げられている問題は、一見するとビジネスと無関係に思えます。しかし、ビジネスにおいても、利益と利益がぶつかっている状況下で、様々な要因を汲み取りながら関係者を調整・説得し、答えのない問題に対し妥当な結論を導き出し続けなければなりません。
皆さんが本書を読むことで、様々な考え方を吸収し、必ずしも答えのない問題に妥当な結論を導き出す能力を得るきっかけとなってもらえればと思い、本書を推薦した次第です。
近年、東京をはじめとする一部の都市では人口が増加しているものの、それ以外の多くの地域では人口の減少や高齢化、地域経済の衰退が問題となっています。特に地方では、地元で働く場がなかったり、買い物をする店がなくなったり、身近に通える病院や診療所がなくなってしまうなど、生活することが困難になっている地域も少なくありません。こうしたことから、人々が生活しつづけることができる、持続可能な地域をつくるための研究が様々な分野で行われています。この本の著者の小熊氏は、社会学の視点から持続可能な地域のあり方や地域振興の方策について考察しています。
同書の魅力は、著者が各地を訪れ、地元企業の経営者や行政機関の関係者、まちづくりに取り組む人たちへのインタビューを通して、地域の生き生きとした実態が紹介されていることです。もちろん、彼らの成功体験ばかりではなく、失敗したことや苦労していることなども語られています。こうした彼らの取り組みは、持続可能な地域を構築していくための様々な示唆を与えてくれています。ただし、地域は画一的なものではないことから、持続可能な地域を実現する方法も決して1つではないことも実感させられます。同書では、地方の地場産業の町である福井県鯖江市や東京都の唯一の「村」である檜原村、かつて観光の町として栄えた静岡県熱海市など、異なるタイプの6つの地域の事例が紹介されています。
同書は、地域振興やまちづくりに関心のある人や、自分の地元を活気づけたいと思っている人におすすめしたい一冊です。また、ゼミナールの研究や卒業論文の執筆にあたり、インタビュー調査をやってみたいと思っている人にも参考になるのでおすすめします。インターネットの情報だけで研究をするのではなく、現場に足をはこんで調査・研究することの大切さを認識させられることと思います。
この本は、東京大学の学部学生用の会計学テキスト(中級レベル)として執筆されたものです。まず、各章に関連あるTopicが取り上げられ、章の終わりにその解説(通説と醍醐先生ご自身の見解)が述べられています。この内容に触れるだけでも本書を一読する価値が十分にあります。本書と一般的な会計学のテキストを比較して、特筆すべき箇所は「あとがき」です。一般的な本のあとがきには、謝辞や今後の展開等が書かれています。しかし、この書物の「あとがき」にはそのような形式的なものは皆無であり、醍醐先生の学問に対する姿勢が凝縮されて述べられています。そのタイトルは「会計学の常識と非常識 −あとがきに代えて−」であり、「通説信仰を超えて」「学びて思わざる会計学の危うさ」「通説への懐疑こそ自立した知性の原点」「知力の衰退とメガヒット」「会計学における通説信奉の危うさ」から構成されています。この中から、特に感銘を受けた一部を紹介します。
しかし、教科書の中で「標準的」学説、既成の原則として説明される内容に疑問を差し挟む余地がないかというと決してそうではない。それどころか、異論や疑問をはらんだ学説なり基準が「定説」、「制度」として解説されることによって「教科書で」学ぶのではなく、「教科書を」学ぶという思考停止、通説への翼賛が助長される弊害を軽視できない。
(中略)
繰り返しになるが、近年、わが国の会計学界にも多数説に群れたがる付和雷同、通説翼賛の風潮が目につく。しかし、その通説は少し凝視すると論証の要所をレトリックですり抜けていることが多い。学問研究が典型的な言論の公共空間だとすれば、異説との交わりを通じて多数説の論理を自立的に吟味する知性を研ぎ澄ますとともに、自説への疑問・批判に真摯に向き合い、応答責任を果たすことが重要である。「自分の感受性くらい自分で守れ」という気骨の詩人の言葉は学問研究に携わる一人一人の人間に自律を促すメッセージともいえるのである。
「教科書で学ぶのではなく、教科書を学ぶという思考停止」、「多数説の論理を自立的に吟味する知性を研ぎ澄ます」という姿勢は、会計学という分野に限らず、どの学問領域でも大事なことです。これは学問のみならず、人生全般にも通じます。私は論文を執筆する際、必ず本書、その中でもわずか数ページの「あとがき」を読み返して、矜持を正します。皆さんにお薦めしたい一冊です。
(付記)
「『自分の感受性くらい自分で守れ』という気骨の詩人」とは茨木のり子さんのことであり、この言葉は詩集『自分の感受性くらい』に収められています。この心に響く詩人の言葉も、是非読んでみてください。