新しい学習スタイルである遠隔授業が定着しつつあります。従来のキャンパスでの授業とは異なる点が多いうえに、遠隔授業ならではの注意すべき点、やってはいけない行為も多数存在します。今回は、そんな遠隔授業におけるNG行為を、法的な視点から解説。新しい学びの時間を安全に、有意義に過ごすための参考にしてください。

私は日常生活で見たり聞いたりしたことなどをSNSで配信しています。先日、A先生の動画授業で興味深い講義資料がアップロードされていて、他の人の勉強にもなると思い、それらをSNSに転載しました。営利目的でも娯楽目的でもないので、問題ないと思うのですが…。

著作権とは、著作権者が他人に対して自分の著作物を勝手に使うことを禁止できる権利です。著作権には「複製権」や「公衆送信権」など、さまざまな権利があります。「複製権」とは、第三者に対し、著作物を複製(印刷、コピー、写真撮影、録音・録画、サーバにアップロード・ダウンロード、模写・手書きなど)することを禁止できる権利です。「公衆送信権」とは、他人が著作物を公衆に送信することを禁止できる権利であり、公衆送信には、テレビ・ラジオの放送、CATV等の有線放送、インターネットを通じての送信、アップロードも含まれます。この学生は、A先生から授業を受ける目的で大学の講義資料をダウンロードすることを許されていたとしても、それをさらに他のSNSにアップロード等することまでは許諾されていない限り、上記の行為は著作権者であるA先生の著作権侵害(複製権・公衆送信権侵害)に該当します(営利目的かどうかは関係ありません)。
さらに、A先生の講義資料に第三者(Bさん)の著作物が取り込まれていた場合、上記の行為はBさんの著作権も侵害している可能性があります。この場合は、仮にA先生の許諾を受けていたとしても、Bさんの著作権を侵害しているおそれがあることに変わりありません。ちなみに、A先生は、授業の過程においてBさんの著作物を自分の教材に取り込んでいますので、著作権法が定める要件を満たせば、Bさんの著作権を侵害することにはなりません(著作権法は教育目的のため、著作権者の権利を制限する規定を設けています)。

上記のケースで、学生がA先生の講義資料のうち数行についてSNSに転載し、その記載について独自の解釈や批評を詳しく書いた場合、引用の要件を満たせば認められることがあります。A先生の公表された著作物を、公正な慣行に合致し、報道、批評、研究、その他の引用の目的上、正当な範囲内で行い、A先生の教材部分を「」で区別するなど引用部分を明らかにし、かつ出典を明示して引用するのであれば、A先生の許諾がなくともアップロードすることが認められます。ただし引用の要件をきちんと満たしているかどうか十分に気を付ける必要があります。

学校の授業を双方向遠隔方式で受けていたところ、ある学生(Cさん)の発言が実体験を交えつつよく考えられているうえに表現力も豊かなため、先生も褒めていました。このような発言を他の人にも知ってほしいと思い、動画で見聞きしたその学生の名前と発言内容をSNSに上げました。その学生の悪口を書いたのではなく、むしろ褒めたので問題はないですよね?

SNSに載せる際には、著作権以外にも気をつけなければならない権利があります。その1つにプライバシー権があります。プライバシー権とは私生活をみだりに公開されないという法的保障や権利のことをいい、個人の尊厳に基づく人格権に由来するとされています。対象となるのは、私生活上の事実または事実らしく受け取られるおそれがある事柄であり、私たちがその人の立場に立った場合、公開されたくないだろうと認められる内容であり、未だ一般人に公開されていない情報です。なお、既に一定範囲内では公開されている情報であっても保護の対象になりますので、本人に無断でその範囲外の人たちに対し公開するとプライバシー侵害となるおそれがあります。また、その情報が真実であってもプライバシー権侵害となりますし、名誉毀損とは異なり、社会的な評価を低下させる内容でなくともプライバシー権侵害となりえます。 上記のケースでは、Cさんの発言内容自体は評価されるものとはいえ、本人の名前入りで、しかも実体験が含まれている発言を勝手にSNSに上げることは、プライバシー権侵害に該当し違法であると思われます。発言者であるCさんが実体験を踏まえて発言をしても、それは授業内に限り公開する意図によるものと思われますので、それを第三者が勝手に授業外に公開することは認められません。さらに、発言内容が創作性のあるものであれば著作権侵害にも該当します。

A先生の講義を動画で受けています。A先生や他の履修生の顔を写真撮影して「今、A先生の授業を履修しているけれど、履修者がこんなに多いよ」とSNSに載せたいと思っていますが、CASE 2と異なり名前が分からなければOKですよね?

裁判所は、個人の私生活上の自由の1つとして、何人もその承諾なしに、みだりにその容貌・姿態を撮影されない自由を有するとしており、私たちには肖像権が認められています。A先生や他の履修生の許諾なくその肖像を本人が特定できる形で撮影してSNSに上げる行為は、他人の人格的利益を害するものであり、原則として肖像権侵害に該当します。遠隔授業に限らず、友人や知人との写真を撮影してSNSに上げることが多く見られます。友人や知人は一緒に写真を撮ることは承諾していても、それをSNSに上げることまでは承諾していないケースが少なくありません。また承諾を求められた場合、本心としては嫌だけれど人間関係が悪くなることを恐れて渋々承諾することもあるでしょう。自分の容姿をネット等を通して他人に見られたくないと考える人は少なくないでしょうし、ネットに容姿を公開されることで新たなトラブルに巻き込まれることもあります。気軽に他人の肖像を載せることが大きなリスクを招くことについて、今一度考える必要があります。

遠隔授業は、家に居ながら大学の授業を気軽に受けられる便利なシステムです。ですが、これまでご紹介したように、学生のみなさんが気をつけなければいけない法律違反の落とし穴がたくさん潜んでいるのも事実です。自分の権利はもちろんのこと、授業を行う先生や一緒に授業を受ける他の履修生の権利にも充分配慮して便利な遠隔授業を、より安全かつ快適に受けられるよう気をつけていきたいですね。

法律実務に携わる等の後、現職。ネットショッピングに関する法律、知的財産(特許、商標、著作権等)やプライバシー・肖像権等に関する法律、ビジネス全般に関わる法律について講義を行っている。

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