今年は作家、三浦綾子(1922~1999年)の生誕100年にあたります。この機会に三浦の代表作『塩狩峠』を読まれることをおすすめします。一度読んだことがある方にも、ぜひ再読していただきたいです。優れた作品は、読む度に新たな発見や感動があるものです。
『塩狩峠』が新潮社から出版されたのは1968年、半世紀以上にわたって多くの人に読まれています。キリスト教に抵抗感を抱いていた主人公、永野信夫が紆余曲折を経て篤信のクリスチャンになり、若くして鉄道事故で命を失う(連結器が外れて勾配を逆走した客車を止めようと、デッキから線路に身を投じ、客車の下敷きになる)という内容の小説です。この作品は、1909年に北海道の塩狩峠で実際に起きた鉄道事故における長野政雄さんの死がベースになっています。
新潮社は毎年、おすすめの「新潮文庫の100冊」のラインアップを発表していますが『塩狩峠』はフェア開始時の1976年から選ばれ続けています。近年では、同社の「高校生に読んでほしい50冊」にも入っています。作者の夫、三浦光世さんの著書には『塩狩峠』について「これを読んで自殺を思いとどまったという人も少なくない」と書かれています(『三浦綾子創作秘話』〔主婦の友社、2001年〕第5章)。そのくらいインパクトのある本です。
『塩狩峠』の大きな魅力は、読みやすい文章で深い内容が語られていることです。生・死、信仰、人間存在の平等性、人間の心の不自由さなど、人間の根本に関わる諸問題について考えさせてくれます。と言っても、堅苦しい小説ではありません。個性豊かな登場人物たちや巧みなストーリー展開が、読者を無理なく作中世界に引き込みます。
「やがて自分も死ぬものとして、どのように生きるべきか」(「連絡船」の章) ──このようなことを大学時代に考えてみるのもよいと思います。『塩狩峠』は、そういうことを考える際の、良い参考になるでしょう。

出典:三浦綾子 著『塩狩峠』(新潮文庫刊)

今回ご紹介する本は、プラトン著「饗宴」(岩波書店,1965,久保勉訳版)という書籍です。古代ギリシャ時代に書かれた文書のため、今の日本人にとっては、少し慣習的な違和感を感じる箇所も多々ありますが、(入門)哲学書として、そして文学作品としても一読をお薦めします。
学生の皆さんは、これまでに少なくとも一度くらい、ソクラテスという人名を耳にしたことがあるのではないでしょうか。実在した歴史上最も有名な人物の一人として、ソクラテス(紀元前469年頃~紀元前399年)の名前を挙げることは許されるでしょう。彼は著作物を書かなかったので、他者の文書を通じてその思想が残されてきました。彼の弟子であったプラトン(紀元前427年~紀元前347年)の作品に現れるソクラテスの教えは、神格化されずに約2400年を経た今でも、最高峰の哲学として燦々と輝いているのです。
本著は、愛(エロース)が取り扱われており、後世の偉人が探求したフィリア(友愛)、ストルゲー(家族愛)、リビドー(性的エネルギー)等の息吹きも感じられます。ソクラテスが導き出す結論が「さすが!」ですので、ぜひ本書を手に取って味わっていただければと思います。見事な技(これはプラトンの才能ですが、ソクラテスが巫女ディオティマからのまた聞きの形式にて提示)により愛の奥義へと読者を誘います。「男」ばかりの饗宴の場に「女」を登場させ、彼女の言葉で全体を調和させているのです。
皆さん、ぜひ本書を読んで、人と対話をすることから、自分にとって腑に落ちた落としどころを発見する思考法があることを知ってください。ソフィスト(金銭を受け取って価値のある知を教授するプロの弁論家・教育者)はいつの時代も権威を有するものです。しかし、ソクラテスはソフィストをも対話形式の問答法により論駁していくのです(関心のある方は、「ゴルギアス」に挑戦してみてください)。パンデミックやさまざまな事件に象徴されるいびつな社会において、人と人との関係性がぎくしゃくし、日々さまざまな媒体から一方的に情報の洪水が押し寄せてきます。そんな時代のなかで、これに左右される不自由な生活スタイルから時には立ちどまって、他人が発信した情報を信じるのではなく、自分の言葉で考える自由があることに気付いて欲しいと思います。
「愛」とは何か、少し恥ずかしくもある主題ですが、本著はこの問題に真剣に対峙(Φιλοσοφία)しています。今のような時代だからこそ、閑暇を味わいつつ、このような人間の原点に立ち返るようなテーマについて、大切に考えてみてはいかがでしょうか。一人一人が謙虚になり、取り残される人がなくなるように!

日本大学商学部図書館の蔵書数は約47万冊、商業・経営・会計に関する本・雑誌を中心に、その他の一般教養に関する本・雑誌も幅広く収蔵しています。絶版になっている古い本も多数あり、研究史を学ぶのに役立ちます。利用の目的・用途ごとに、きれいに空間の区分がなされているため、目的の書籍が探しやすく、利用しやすい図書館であると思います。またグループ学習を行う際には3階の広びろとしたアクティブラーニングルームが利用でき、個人学習にはデザインが素敵で学生からの人気も高い2階のキャレルがおすすめです。2階の「いろり型思索エリア」というスペースも、とてもユニークですね。

2F「キャレル」

2F「いろり型思索エリア」

OPAC(オンライン蔵書目録)での検索を基本としつつ、レファレンスを十分に活用することをおすすめします。1階にレファレンスカウンターがあり、専門知識の豊富な職員が質問や相談に対応しています。他の図書館から資料を取り寄せることもできますし、資料の探し方やオンラインデータベースの使い方などもわかりやすく教えてくれます。要望や分からないことがあれば、レファレンスカウンターに積極的に足を運んでください。また、今年度から1階ロビーに新着の新書・文庫を陳列しています(その他の新着図書は2階の「新着コーナー」に)。届いたばかりの本ですが、貸し出し可能です。特に新書は学問の入門書のようなもので、持ち歩くのに適したサイズです。ぜひ手に取ってみてください。思いがけない本との出会いがあることと思います。

OPAC(オンライン蔵書目録)

感染症対策のほか、マナーを守っての利用にご協力ください。1階奥の「資料室」と地下1階の閲覧席は、会話やパソコン・電卓の利用ができない、静かな環境で資料の閲覧をする「サイレントスペース」です。また、図書館の資料は将来にわたって共有の財産ですので、大切に扱ってください。よろしくお願いします。

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